そうでなかった人生の清算方法。その1 『LIFE!』

なかんだかんだと年度末〜年度初めにかけて人並みにバタバタとしていた。
とはいえ別に仕事漬けになっていたというわけでもなくで、広島までPerfumeフェスを観に行ったりはしていた訳だが。

ということで
『LIFE!』

ベン•スティラーというだけで 全てを許してしまう自分だが、いやコレ良かったですよ。前評判も余り耳に入らないし、多少不安を抱えての鑑賞だったけど、いやはやどうして。
一枚の写真を追い求める道程は、もちろんロードムービーだし、ミステリでもある。
お気に入りのシーンはいくつかあるが、やはり酒場での「スペース•オディティ」が一番かな。まさに、ウォルターの背中を押したこのシーンで流れるシェリル(クリステン•ヴィク、イイですねえ)の歌声が素晴らしい。これを聴くためだけにサントラ買ったくらい。
あとは山でのシェルパとのやりとり。まさにベン•スティラーという感じで肩を揺らして笑った。大好物です。

ウォルターのように白昼夢的世界に意識を飛ばしていれば、当然のように日常生活に支障が出るのは仕方のない話だが、しかし「こうでなかった人生」に思いを寄せるという事は誰しもやることだろう。ふとした生活の隙間にライトな妄想にふけることくらい皆やっている、はず。
ややインフレ気味に過剰になっていくウォルターの冒険が、違和感なく見続けられるのは、やはりベン•スティラーのなせる技であるという点を抜きにしても、「こうでなかった人生」へステップインしていく事へのカタルシスというものもあったのだろう。鑑賞後の爽快感は高い。
ジェイソン•ボーンのような、あるいはスパイダーマンのようなアクションやバトルシーンへの憧れは、見ようによっては陳腐さをまとっていて、それこそがウォルターのインナーワールドの現れかもしれない。当たり前だけど、そんな現実が訪れる訳がない。
ウォルターの旅は都会からどんどん離れてマージナルな所へ行くが、それにつれて彼はリアルな身体(と精神)を取り戻しているようだ。確かにヘリから荒れた海へ飛び降りたり火山の噴火に追いかけられたりすることは日常生活から遠い。しかし、そこに身を置いているウォルターは生身だ。彼がそこで発揮する能力は、今まで夢見ていたような超人的なものではない。ウォルターが元々持っていた(そして隠され、忘れられていた)パワーだ。山道を颯爽と駆け抜けるスケボーシーンに心踊るのは、そういう理由からではないか。
旅の終りとそのオチは、驚愕のドンデン返しという類ではないものの、ある種の驚きと納得を与えてくれる、とても良く出来た締めくくりだった。
素直にグッときたし、やや綺麗にまとめた感もなくはないし、そりゃ『トロピック•サンダー』の方が好物だけど、コメディとのバランスを取りつつウェルメイドに仕上る手腕はなかなかだと思う。
ま、ベンジャミン•バトンのパロディは、ちょっとどうかなと思った事は付け加えておく。