目黒駅は品川区にある。そして品川駅は港区。 『LOVE』/古川日出男

映画にしろ小説にしろ、なかなか「構造的」に理解したり「論理的に」捉えるという事が苦手だ。
まあ、要するに頭が悪いという事なんだろうけど、「いやあ、とにかく良いんですよ」って程度しか言えない事が多い。
だから人の感想とか批評を読むのは割と好きで、「ほほう。なるほど、そういう視点もあるのか」とか「ああ、感じていたモヤモヤの原因はこれだったか」と気づかされることが多い。


前々から評判は耳にしていて、読みたいと思っていたがなかなか手が出なかった古川日出男。読んでみた。
良いですね。良い。リズムが合うというんだろうか。面白いし。(ほら、身も蓋も無い感想でしょ?)
『LOVE』は、猫と子供と男と女たちのお話。短編集と言っていいのか、連作集といっていいのか。いくつかのエピソードに別れているが、それぞれリンクしている。あえて言うなら猫がキーワード。


基本それぞれのパーツは一人称で書かれている。「おれ」「わたし」「僕」…。それぞれ別の人間であるが基本一人称。そして「きみ」について語っている。
でもこの一人称が曲者で、普通でない。
「おれ/わたし/僕」は「きみ」について語りながら、最後まで「おれ/わたし/僕」が誰か分からない。しかも「おれ/わたし/僕」は、いわゆる小説の語り手としての視点(神の視点)を持っているので、何とも言えない不思議な感覚がある。
「ところでこの”おれ”ってのは誰の事なんだろうか」と頭の隅でひっかかりながら読み進む。
でも、いつまでたっても”おれ”が登場しない。
登場しないまま、「きみ」についての「きみ」を巡るストーリーが続くので、
最終的には「ああ、この”おれ”っていうのは便宜上の人称で、あくまで語り手に過ぎないんだな」と自分なりの決着をつけた途端、それは裏切られる。


最初の章「ハート/ハーツ」の最後、「おれ」が言う。

そして、おれはおれのことを知っている。

そうして、「おれ」が誰であるかの表明が行われる。
ここで震えました。
いや、ミステリ的な種明かしがあるわけではない。そうではないんだが、イビツなパズルがハマる感じ。
おもに「きみ」について語り、「きみ」のストーリーが続くが、最後には「おれ」の話になるという構造。
「きみ」の話であり、それは「おれ」の話でもある。
それが自分にはピタリと来た。

あとは会話とストーリー展開。
特にストーリー展開は、速度があるというのか、一瞬のうちに事態が転がって行くのが良い。例えばたった一行で、普通の主婦が壊れて行く描写とか。


実はまだ読了していません。途中までしか読んでない。
それでもこうして感想を残しているのは、なんとなく今の感じた事を残しておきたいと思ったから。
最後まで読まなくてもこの小説が良いのはもう決定している。自分のなかで。

という事で古川日出男、良いです。マイ引きだしには舞城王太郎と同じコーナーに入れました。

LOVE (新潮文庫)

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