若かりしグリッサム主任の暗い目。 『L.A.大捜査線』

いや、『エクソシスト』『フレンチコネクション』はもちろん素晴らしい。『恐怖の報酬』のリメイクだって昔、日曜洋画劇場で観て「ニトログリセリンこわー!」とか言いながらワクワクドキドキした記憶がある。「おれ、帰ったら結婚するんだ」⇒ドカーン的なフラグ展開もあったりしてね。それなりに楽しめた作品だった。ほとんど覚えてないけど。
さて、そんなウィリアム・フリードキン作品であるが、やはり自分の中では(同時代的に体験できたという面が大きいのかもしれないが)衝撃度という点で、『LA大捜査線』を推したい。
ウィレム・デフォーの「今、俺売れかけてる」感をビシビシ感じる演技。ロビー・ミューラーのカメラ。
そしてフリードキンの感情移入を許さない突き放した人物描写と展開は…いや、本当カッコイイ。
よく言われる『その男、凶暴につき』との比較。
確かに共通するポイントは多い。「清濁併せ呑む刑事」「警察内部の腐敗」「甘ちゃんの相棒、そしてその変貌」「敵役のセックスアピール(これはちょっと強引か」「××が○○する展開」…挙げていけば結構ある。
しかし北野作品のオリジナリティはまた別格で、例えばキリキリとした空気感やそっけないが破壊力のある暴力シーンなどは北野作品の方に軍配が上がると言っても良い。主人公が途中で疲れて走るの止めたり、流れ弾が関係ない人間に当たってサクっと死んじゃったりといったあたりの表現は北野作品独特のものだと思う。
さて。
主役のチャンスを演じるウィリアム・ピーターセン。今ではすっかりCSIのグリッサム主任として、その愛嬌のある体型で知性と温もりを感じるキャラクターとなってしまった。しかし、この頃のピーターセンはトガっている。もちろん体型もシャープだし、ありふれた正義という枠にとらわれない、陰のあるキャラクターはとても印象的だ。
特に目。暗く、でありながらにぶい光を持った目。いいねえ。かっこいい。
ホント出演作が少ないのが悔やまれる。まあ今ではスターとして成功しているんだけど、個人的にはもっと映画に出てほしかったな。もちろん引退した訳じゃないし、これからもそういう機会はあるだろう。でも、やっぱり若いころのシャープで陰のあるピーターセンをもっと見たかった。
で、これは勝手な邪推だし的外れも良いとこだと思うけど、おそらくウィリアム・ピーターセンはこの映画が持つフリードキンの毒気にやられてしまったんではないだろうか。
そして二人のウィリアムが憂鬱に包まれた、なんてね。フリードキンの方もこの後、パッとしてないし。(デフォーは”ウィレム”だった事が幸いした、なんて馬鹿な事を考えたり)
次に主演したのが(撮影時期は正確に分からないけど)『刑事グラハム』であったというのもまたピーターセンの「暗くて深い闇のような眼」に拍車をかけてしまった気がする。
そういう意味では10年、いや5年早かったのかもしれない。

という事で、『L.A.大捜査線』、ぜひ『その男凶暴につき』とあわせてご覧下さい。

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