ま、普通は包んで流すよな。 『アリス・クリードの失踪』

予告編の「ノーラン、タランティーノの再来!」という惹句が却って不安を感じさせていた『アリス・クリードの失踪』は、やはり『レザボアドッグス』や『メメント』のような”飛び級”的パワーはないのも事実。
しかし、なかなかの良作。
冒頭の黙々と誘拐の準備をするふたりの様子から引き込まれるし、予告編にあるような”騙し騙されの心理戦”も程よい感じで、観客が「裏の裏の裏の…」と考えてしまうような面倒くささもない。
拉致する場面や身代金のやり取りなどはバッサリと省略されている。そう言う意味では警察との駆け引きや身代金の受け渡しでのサスペンスを期待する人には物足りなりかもしれない。あるいは「予想を裏切る衝撃の展開」を求めると肩透かしをくらうかもしれない。
しかし結果として三人のやり取りにフォーカスした事は成功していると思う。これを三人以外の世界も描写してしまうとすこしノイジーになってしまうような気がする。
その代わりというか、人質の「着替え」「食事」「排泄」の描写は割と細かい。特に着替えは「そこまでやりますか」って部分まで描写していて、なかなかこだわりを感じるシーンだった。別にジェマ・アータートンの胸があらわになったから言ってるわけでは、少しあるけど、ない。
映像も時おりハッとさせられるカットがあったりして、特に倉庫をロングで捉えたショットはなかなか良い感じだった。
あと明らかに『ミラーズクロッシング』を意識してる森のシーンとかね。

主犯格のヴィックを演じるエディ・マーサンの、一瞬で「ソレ」と分からせる表情の変化は上手い。携帯のチップの処理の場面はダニー(マーティン・コムストン)との差を感じさせて良い演出だったな。普通、そうするだろうよ。
アリス役のジェマ・アータートンは『慰めの報酬』も観ているけど、その時の記憶がほとんどない。今回、改めてじっくりと見た気がする。うーん…良いですね。ほとんど縛られて、泣きわめいてるだけだけど、時おり佐藤仁美みたいな顔になったりして、個人的に好きです。

それにしてもホントに三人しか出てこなかったな。
監禁場所はともかくとして、冒頭の買い物のシーンやそれ以外の外の場面でも通行人すら映っていなかったんじゃないだろうか。そこは徹底しているのかな。


あと、タイトルは『the Disappearance of Alice Creed』で邦題もそのまま直訳だけど、これってちょっと落語っぽいなと思った。「と、言う訳でアリス・クリードの失踪でございました」って感じ。上手く言えないけど。


という事で、新しい才能の誕生は感じさせてくれる作品でした。