疾走する赤ずきんちゃん。『ハンナ』

ターミネーター2』のT-1000(ロバート・パトリック)、『ラン・ローラ・ラン』のローラ(フランカ・ポテンテ)の走り方はとても印象に残る。
前者では冷徹な機械としての動きが怖さとともにコミカルさを醸し出しているし、後者では愛嬌のあるヴィジュアルの女の子の走る姿がジャーマンテクノの効果もあって疾走感があって、とても良い。


という事で
『ハンナ』


とにかく走っている。
ハンナ役のシアーシャ・ローナンの走りっぷりが素晴らしい。
それを観るだけでも価値がある、と言いたいくらいだ。


ジョー・ライトの作品は初めて観るが、なかなか面白いセンスという印象。
冒頭からしばらくは不穏な空気を纏っていて、言ってみれば「殺人マシーンとして育てられた少女」のお話という枠に沿って進んでいく。
ケミカル・ブラザーズのスコアとともに繰り広げられる映像はスタイリッシュで素直にカッコいい。
「こんな感じで進んでいくんだろうな」と思っていた途端に、ソフィーの一家との出会いから空気が変わる。
極端に言えば、青春コメディの様相を見せるようになってくる。
しかしこれは欠点とは思わない。
個人的には「バランスの取れた振幅」として捉えたいと思う。甘酸っぱいひとときこそが、ハンナが抱える現実の冷たさの対比として活きていたんじゃないだろうか。
ジャンル枠に収まらないちょっと不思議な感覚を持った作品になっている。
まあ、言い方を変えれば「視点のズレ」であったり「緩慢な構成」という指摘も成り立つとも言えるが、余りそれは気にならなかった。
いや、何だかんだ言ってソフィーパート好きなんだよね。ベタだけどぎこちないデートの場面とかは、何と言うか微笑ましいし。


以下ネタバレ含む。かもしれない。


エリック・バナは『ミュンヘン』以来で正直、名前を忘れかけてたくらいだったが、いや良いね。カッコいい。
そしてケイト・ブランシェットの流石の存在感。
基本的に彼女が出ていると点数が甘くなるんだけど、今回も良かった。
監禁部屋のハンナが銃を撃つ場面でのリアクション、ヨハンナの母親を殺す場面、そして神経質に歯の手入れをしている時の顔…などなど。印象的なシーンが多い。

狼の口から出てくる「魔女」の図
ちょっと髪型は変だったけど。


あとはトム・ホランダー
ちょっとホモセクシャルっぽい雰囲気で良い味だしていた。口笛を吹きながら歩く姿が印象深い。(関係ないけど、ちょっとあれ『キル・ビル』の口笛を想い出した)


まあ、とは言えやはり、シアーシャ・ローナンだ。
特に目。無機質な目。
それを含めた表情も良い。

頭巾状態のハンナ。
存在感/オーラはレベル高い。


フィンランドの森を出たハンナは、マリッサという魔女/狼が待ち構える「新たな森」へと向かう。
危険はいっぱいだが、それでも「グリムの家」を目指す。
途中のモロッコでの「文明とのファーストコンタクト」やソフィーとの出会いから生まれる「十代の女の子としての普通の生活」の経験値アップ。
そいういった要素は「少女の成長ストーリー/巣立ち」として解釈を生む事になるのだろうか。
でもラストでマリッサにトドメをさす時は、冒頭でシカを仕留めた時と同じセリフをつぶやく。無邪気に。
と言う事は、やはりハンナはフィンランドの森にいる時と同じままというお話なんだろうかね。それはそれで切ないって話だけど。