1986年の作品と言っても違和感なし。『ザ・ウォード監禁病棟』

とはいってもカーペンターはちゃんと観たのは『ゼイリヴ』『クリスティーン』『スターマン』くらいだったりして『物体X』も『ニューヨーク』も観てない。キューブリックで例えるなら『2001年宇宙の旅』も『時計仕掛けのオレンジ』も観てないような状態で、「そんなんでカーペンターを語るなよ!」って言われても文句は言えない。
と言う事で
『ザ・ウォード監禁病棟』


ホラー/SF映画界の巨匠10年振りの復活作!とかいった気負いを感じさせない、良い意味で職人的にサラリと作ってある感じがとても良い。
確かに設定はヌルイかもしれないし、展開も何となく想像がつくものではある。
それでも演出は丁寧に感じたし、終わった時には拍手をしたくなるような快作。いやあ、面白かった。
CGを全く使ってないのかどうかは判らないけど、「特殊メイク」っていう方がピッタリくる空気が素晴らしい。シネコン時代に作られた作品とは思えない、まさに銀座シネパトスが似合う映画。(観たのは新宿武蔵野館だけど)


主役のアンバー・ハードが良い。予告編ではそれほどピンとこなかったけど本編で観ると魅力満点ですな。
単に美人さんというだけでなく、ふと見せる表情が何ともいえずアトラクティヴ。
例えば昏睡状態になっている時のちょっとフラフラした感じとか、憂いのある表情で窓を見つめているところとか。
タイトジーンズにシャツをインという一歩間違えばダサいスタイルも彼女の魅力を引き出す要素になっていた、というのは言い過ぎか。

昏睡状態のアンバー嬢
ちょっと注目しておきたい。『ゾンビランド』に出ていたらしいけど、どこにいたんだろうか?
何しろアンバーって名前が何か良いよね。


その他のキャストもなかなかのもので、同じ病棟仲間のガールズ達はもちろん看護師長(?)のおばさんが良かった。
いかにも胡散臭い、「絶対裏に何かあるだろう?」と思わせるオーラ。

名前知らないけど、良い仕事してます。

以下ネタバレいきます。

で、設定がヌルイとか展開が読めるとか言ったけど、最後の「対決」部分は逆転の構図が面白い。
主役であるクリスティンが悪霊(とされている)アリスと戦うわけだけど、真相が明らかになってからはクリスティンの方が敵の役割に転向するんだよね。特殊メイクでモンスター然としたアリスがクリスティンをブン投げる構図。これが「正義の行い」になっているというところ。
これ、ちょっと面白いと思った。
ラストも「ああ、これアレが来るパターンね」と判るっちゃ判るんだけど、むしろそれが快活に感じる。


とにかく全体的にタイトにまとまっていた無駄のない良くできた作品だったと思う。
ほとんどが病棟内での出来事だけど、脱走や謎の究明、ラスボスとの対決などで飽きさせずに100分。くどいようだけど映画はこれくらいの上映時間が一番よろしい。
シャワーシーンというサービスカットもありますし。

まあ、ちょっと残念だったのはカーペンター謹製の音楽が聴けるのかと期待してたんだけど、それがなかった事くらいだろうか。

淀川先生が生きていたら間違いなく日曜洋画劇場で放映するんだろうなあ。