俺がお前でお前が俺で。 『ミケランジェロの暗号』

シャンテ・シネ。いや今ではTOHOシネマズ・シャンテか。
の良い所は、近くに昼間っから呑める店があると言う点だね。
映画の余韻に浸りながら呑むホッピーもまた格別よ。
という事で
ミケランジェロの暗号』




いやはや予想外に面白かった。
予備知識がほとんどない状態でタイトルから想像していたのは
「第二次大戦下、ミケランジェロの絵に隠された秘密の暗号。戦争の行く末の鍵を握るその暗号を解き明かそうとする主人公に危険がしのびよる。暗号に秘められた衝撃のメッセージとは!衝撃の戦争ミステリー!」
って感じだったんだけど、ちょっと違っていた。
しかしそれが期待ハズレだったかというとそういう事でもなくて、ハードな運命とその流転を、ユーモアを交えて描くスタイルは好み。


ミステリーというよりはサスペンスとしてのドキドキが楽しい。いや、楽しいっていうのもちょっと変かな。でも楽しい。
主人公に迫る危機⇒回避の流れは、ドキドキしながら思わず笑いが出る。良いタイミングで偶然に「良い方向」に物事が運ぶ展開は、定番っちゃあ定番なんだけど、それだけにスリルを感じやすい。
主人公ヴィクトルやルディとの、正に目まぐるしい状況/関係性の変化は(ナチ占領下のオーストリアという背景を考えれば)軽々しく扱えるものではないが、それをバランスよく仕上げてあったんじゃなかろうか。非常にエンターテインメントに満ちていた快作だと思う。


モーリッツ・ブライプトロイはドイツ映画の顔って感じでさすがの存在感。前半の裕福なお坊ちゃまとしての余裕感も良かったがやはりラストの顔だな。あそこは彼以外のふたりの顔が特に良かった。
ルディ役のゲオルク・フリードリヒ。ダイハードシリーズで悪役にいそうな面構え。ヒゲある時は愛嬌ある顔だったのに剃ると途端に悪人顔になってたな。と同時に終始情けない表情をしているというね。
そして意外に良かったレナ役のウーズラ・シュトラウス
初登場シーンは「印象的な顔だけど今ひとつグっとこないなあ」と思っていたけど、後半での彼女は中々の活躍ぶり。機転の利くデキル女っぷりはなかなか良かったね。

以下ネタバレ含む。



正直なところ『ミケランジェロの暗号』というタイトルは、少し嘘だ。嘘だというか、別に暗号を解く話でもないし絵に暗号が隠されているわけでもない。
強いて言うなら父親が残したメッセージが暗号らしいと言えば暗号だけど、それにしたってそれほどヒネリがあるわけではない。
中盤くらいから絵のありかは大体想像がつくだろう。
原題はMein bester Feind(my best enemy)なんだよね。
ルディの「裏切り」から始まり、ヴィクトルの「反撃」、そして形勢逆転が繰り返された末のラストの「リベンジ」といったふたりの攻防…。家族と自分の命を、それこそ「命がけ」で守ろうとするヴィクトルと、ルサンチマンを抱えて一発逆転人生を図ろうとするルディ。
物語を推進しているのはこういうヴィクトルとルディの攻防戦だ。
特にヴィクトルとルディが入れ替わってからの展開は飽きさせない。
飛行機墜落後にヴィクトルがルディを(恨みツラミの文句を吐きながらも)助ける展開には「なるほど。これで立場の違いを超えて友情を取り戻すんだな。感動系に持ってくのね」と思っていたらそれは見事に裏切られる。
入れ替わりが露見するかしないかのスリル、立場逆転から生まれるコメディ、本物の絵のありかをめぐるサスペンス。
これが上手く絡み合っていたと思う。
「しかしいつまでもバレない訳にもいかないだろうな」と思っていたタイミングで正体がバレるあたりも丁度良かったんじゃないかな。


絵のありかについては父の「遺言」がメッセージとなっていたけど、これそのまんまでしたね。
まさか絵の中に入ってるんじゃないだろう、と思っっていたらホントに絵の中に入っていたのでちょっと肩透かしをくらうかもしれない。
だが、これはこれで正解だと思う。
あれを「肖像画の父親が見つめていた視線の先にある壁の中」(例えが下手ですみません)とかだったら、ラストの爽快感のある展開に持っていく事ができない。
父親の肖像画を抱えて画廊を出るカウフマン一家。お母さんの表情がまた良いんですよね。腹の底からにじみ出るような静かに燃える復讐の炎。そして勝利を見せつけるような顔顔顔。それを絶望と諦めの表情で見つめるルディ。
あの構図を作り出す為にはやはり肖像画の中に絵がなくてはならない。


しかしまあ、父カウフマンの先見性というか用意周到ぶりには関心しますね。
ある意味では父カウフマンがルディに勝利した、という話だったのかもしれない。


メモ

  • レナが呼ばれてヴィクトルとルディに対峙する場面。一瞬にして状況を把握し、ヴィクトルの身を守ったレナの機転の良さ。カッコイイよね。その後の高速でモールス信号を打つ場面もなかなかよろしい。
  • ルディの上官(っていうのか?)ちょっとガブリエル・バーンに似てた。
  • 音楽がイングロリアス・バスターズにちょっと似てるところあったね。