ポストシーズンに出れるだけでも羨ましい。『マネーボール』

今年も我が赤いチームは5位に終わった。
一時は首位争いもしたし、8月まではCS争いに絡んだりして「今年は…イケルんじゃないだろうか」と思ったものの結局は5位となった。
メジャーリーグほどではないにしても年俸の総額は12球団中12位。
そろそろ革命的なGMがうちにも現れないだろうか。
いや別にマネーボール理論は実践しなくて良いけど。

と言う事で
マネーボール


実在する球団の実在する人物の物語。
なので勿論多少の脚色はあるにせよ、基本的には事実に即したストーリー展開なんだろう。
だから例えば『メジャーリーグ』とか『がんばれ!ベアーズ』のような「ルーザー達の逆転物語」としてのカタルシスは少なくなるはずだ。
はずなんだけど、この作品では元になっている事実を物語として成り立たせるのが上手かったと思う。
実際に起こった出来事を上手く見せてくれたんじゃないだろうか。
ハッキリ言って冒頭のヤンキースとの試合のシーンから目が潤んでいた。
細かい数字は忘れたけど「○○億ドル対○○千万ドルの戦い」という表現。
たったそれだけで「ルーザー達の一発逆転なるか!」というストーリーが身体に染みてくるのはカープファンだからだけではあるまい。
FAで移籍していったスター選手の垂れ幕が外されていく描写など、チームの状態とリンクさせた単純ながら上手さを感じる演出だった。
怪我で将来が危うくなっていた選手をスカウトする場面や反面ロッカールームで解雇を言い渡される場面なども野球映画では定番ではあるが、過剰にならないバランスの淡々とした演出で心動かされる。
観終わるまで知らなかったけど監督は『カポーティ』撮った人なんだね。だからフィリップ・シーモア・ホフマンが出てたのか。最初は誰だか判らなかったけど。

以下ネタバレを含みながら。
って言っても事実を元にしているしネタバレ云々する映画でもないとは思うけど、まあ一応。


特に20連勝がかかった試合でハッテバーグが最後に放ったホームラン。
あそこはストーリー展開として予想の出来るホームランではある(ていうか実際の出来事だけど)が、それでもとてもエモーショナルなシーンだ。ちょっとロバート・レッドフォードの『ナチュラル』を彷彿とさせる「グっとくる」シーン。ドキュメンタリー的な展開の中でファンタジーを感じる良いシーンだった。
あのホームランはマネーボール理論が成功したという事だろうか。個人的な印象としてはマネーボール理論という枠を超えた「野球の力」みたいなものを感じさせてくれた。

ハッテバーグの再生物語の完結(あるいは序章)のようでもあるし、ビリー・ビーンの野球人としての感情が静かに爆発した事にリンクしているようにも思える。


ビジネスライクに他球団のGMと交渉する場面、まあ冷静に考えればシーズン途中でのトレードや解雇という非常に哀しい話なんだけど、あっちこっちに電話して瞬時に判断して駆け引きして交渉してく様子が面白い。クールにドライにビジネスとしてサクサクと進める様はむしろ心地よいくらいだ。


ビリー・ビーンとピーターのコンビも良かった。
スカウト会議での指パッチン。あれ真似したくなるね。
ジョナ・ヒルもほとんど表情をかえないオタクちっくなキャラクターを愛嬌あるように作り上げていて好印象。
電話しながら顔をゆがめてガッツポーズ(というかグっと拳をゆっくり握る)ところも良いし、試合観戦している表情も良かった。試合を観に来たビリーを眺める目やハッテバーグがホームラン打った時の潤んだ目。
こういうの見ると古株スカウト連中から「コンピュータで野球はできない」なんて言われても、彼だって彼のやり方で野球を愛していると言う事が分かる。


脚本がアーロン・ソーキンという事もあって、もうひとつの『ソーシャルネットワーク』という指摘も見られる。言われてみればなるほどそうで、旧態依然とした世界に革新的な方法論で切り込む男の(成功/再生/孤立)物語という点で頷ける意見だ。
そしてビリー・ビーンの場合は、かつて野球選手として大成しなかったという背景や娘との別居関係という状況がより一層「ルーザー感」を強める。
ラストの娘が歌った曲。あれ、沁みますねえ。
あれリアルに娘・ビーンさんの曲なんだろうか。そうなんだろうね。
「パパはおばかさん、野球が好きなのね」
あんな事言われたら泣いちゃうな。娘いないけど。
それにしてもブラッド・ピットは前にも増してロバート・レッドフォード化してきた。


さて。
僕らのカープ歓喜シャンパンファイトが出来るのはいつの事になるのか。