帝国の逆襲Tシャツより大切なモノ。『宇宙人ポール』

都市伝説というか陰謀説という形で語られる「スピルバーグは政府(あるいはフリーメイソン)の手先としてエイリアン映画を作っている」という話。
こういう話を飲みながら真剣な顔をして話すと多分微妙な空気になりかねないので注意が必要だ。

と言う事で
宇宙人ポール

サイモン・ペグとニック・フロストのコンビ作として待ち望んでいた作品。ちょっと勘違いしそうだけどエドガー・ライト監督作ではない。ないが二人の才気ぶりが感じられるとても楽しい一本となった。
宇宙人との思わぬ道行というストーリーにバラエティを与えているのは、ペグ&フロストのナードぶりが生む可笑しさはもちろんだが、何しろ宇宙人ポールのキャラクターだろう。
かつてこれほどシニカルで「人間味」にあふれたエイリアン像があっただろうか。ハッパ決めながら「クックックッ…。そのボブ・ディランは本物かい?」って言うエイリアン。どちらかと言うと「ちょっと困った人」という表現が近い感じだ。
その困った人に巻き込まれた二人の同行は、ポールを狙う「組織」の人間からの逃亡劇となる。『E.T.』や『未知との遭遇』といったかつてのSF映画へのオマージュと批評を感じる描き方は、とてもスマートで良い。


ポールとグレアム&クレイグの間に友情(のようなもの)が生まれた事について取ってつけたようなきっかけや理由は特にない。仕方なしに、巻き込まれるような形で始まった逃避行の中で自然と生まれただけだ。BBQしたりハッパ決めたりしながら、あたかも普通の友情のようにいつの間にかできあがった人間関係。


で、あると同時に。
ポールは二人(とルース)にとって自分を成長・解放/開放してくれた存在でもある。
グレアムとクレイグは売れっ子SF作家(とイラストレーター)になった。ルースは信仰(と父親の呪縛)から解放されコミケにイウォークのコスプレをするまでになっている。
ポールと最初に接触した幼女は老いてようやくポールと再会した事で、失われた人生を取り戻すことができた。
などなど。
宇宙人ポール』は青春/成長ストーリーにもなっている。
そしてそれを声高に描くことなく、さらりとスマートに表現しているのが良いね。


笑いどころは色々あって、冒頭近くのスターウォーズのタトゥイーンのシーンを二人で(カット割りも含めて)再現しているところ(※追記 と思い込んでいたら、ここはスタートレックが元ネタらしい。恥ずかしや。まあしかし元ネタを知らなくても笑えるって事で…。)やルースが自分の信仰が揺らぎ始めた時にアメージンググレースを歌う場面などたくさんある。
酒場で乱闘になって「やべえ!船乗りだ!」ってところとかね。上げればキリがないので止めるけど。
スピルバーグがポールにアイディアを頂く場面(本人の声!)といった嬉しいサプライズもある。
そんな中でドジ二人組が思ったより良い仕事をしていて「今のダーティー・ハリーのマネ?」とか、懐中電灯をビーム替わりにしてお互いの股間を攻撃しているところとか(ほんと中学生かよ!って感じで良いよね)、さりげなく頑張っていた。(最後の客席にいた火傷だらけの男、アイツだよね?)


キャストは皆良い仕事をしていた。
主役とポールはもちろん、ルース役の人も良かった。
ルースにある何とも言えない可愛さは何なんだろう。爆風に巻き込まれて父親を心配して走っていったあと「うん。パパは大丈夫!」って言って引き返すとこ笑ったわ。
その他のキャスト、ルース父、ドジ二人組も良い味出していたし、ジェイソン・ベイトマンも真面目っぷりがキャラクターに合っていた。宇宙人喫茶(?)の女主人、ジェーン・リンチって判ったのは最後だった。ジェーン・リンチだからこそラストのルースとの抱擁が微妙な笑いになるんだよね。
あとあのおばあさん。上品な人だなあ、と思って見てたけど、グィネス・パルトロウのお母さんとは。
ポールに宇宙船に誘われるとことは、『コクーン』をちょっと思わせる。「第二の人生をあげるよ」


こういうコメディモノはやはりキャストが大事だね。しっかりと真面目にバカやってくれないと笑えない。


ラスト。
グレアムの『帝国の逆襲』Tシャツはボロボロになってしまった。
だけど多分それより大事なモノを手に入れた。はず。
気まずい別れの時間を過ごしながら。