おせちも良いけどカレーもね。『ロンドン・ブルバード』

出来ればスタローンとかジャッキー映画で一年を始めたいところだが、生憎それにあたるような作品がない。
『サラの鍵』や『灼熱の魂』も観たいけど、正月早々いきなり刺激が強いのも気が引けるというか…。
『ゴーストプロトコル』を映画初め用にとっておけば良かったな。
という事で
ロンドン・ブルバード

ほとんど予備知識なし。駅で見かけるポスターで存在を知り、何となくスタイリッシュなシャレオツ系なものをイメージしていた。まあある意味当たっていたし、ある意味外れていた。
オープニング(とエンドクレジット)そしてサントラも悪くない。特に不穏な空気を表すようなテーマの繰り返しは、なかなかの出来。
しかし映画全体は何だか散漫な印象。
ミッチェル(コリン・ファレル)を巡るストーリーとしてシャーロット(キーラ・ナイトレイ)との関係、ギャングスタ組織との対立、妹や街の仲間たちとの繋がり、が要素としてある。
でそれぞれが絡み合いながら展開していくんだけど、今ひとつドライブ感がない。
以下ネタバレも含みつつ。



特にシャーロットパートに魅力がないのがデカイ。ミッチが彼女に惹かれていくあたりに説得力がない。
組織のボスとの対立や仲間の死を発端とするリベンジのパートが悪くない(というか結構良い)だけに勿体ない気がした。
いやキーラ・ナイトレイはその(余りにも)スキニーな肢体を含めて不安定な感じが良く出てたし、ふとした表情には時折引き込まれるような魅力があった。
けどね。
ミッチが何の葛藤もなく彼女とくっついちゃうもんだから、ラストの哀しさも今ひとつ。
むしろシャーロットのくだり、いらん。くらいに思ってしまう。

ミッチの行動原理が任侠的な「男気」的なところにフォーカスされているわけでもなく、かといって「巻き込まれてしまった男」といった部分が強調されているわけでもない。
あ、これ変なサブタイトルついてますけど全然ボディガード的な事してませんから。ちょっとこの邦題はどうかと思う。
さて。
ミッチとシャーロットの話。
てっきりシャーロットへの恋愛感情は仄かに示されるだけで、「背中で語る」的な感じを想像してたらあっさりベッドインしちゃうんでちょっと肩透かしをくらった。
心(と身体)を通い合わせるにしても、もう少しこうジラシのようなものが欲しかった。
心は通じてるけれども、それを具体的には口に出さず、ましてや接触まではいかない。そのじれったい感じ。
最後ミッチは(結局行けないけれども)シャーロットの待つホテルへ向かうつもりだったのかな。行きそうだな、あの感じだと。
いや昭和の男的あるいは健さん的メンタリティで「黙って去る」って感じにしとけばOKという訳ではないけれど、どうせなら任侠モノとしてのそういうファンタジーが欲しいじゃないですか。


その一方で組織のボスとの対立パートは緊張感とカタルシスを感じる出来になっていて、かなり好き。
ボスを演じたレイ・ウィンストンの存在感。さりげない表情や仕草で権力者ぶりを分からせる演技/演出は悪くない。ビリーのダメダメ感を観客に伝える初登場のシーンとかね。
この組織パートは不穏なスコアの効果もあってか緊張感のある画面になっている。
「その話が俺に何の関係が?」をキーワードにした射殺シーンにはそれなりのカタルシスも感じられて、結構良い。
それだけに、全体的に散漫な感じになってしまったことが、惜しい。
この部分とホームレス殺人の復讐とにフォーカスしていればもっと良かったのにと思う。
あるいはシャーロットに対しても一定の距離を保つ描き方がされていれば、また印象は変わったんじゃないかな。

聞けば『ブリッツ』と原作が同じと言う事で、言われてみれば何となく腑に落ちる。
というか「惜しい」感じが良く似ている。キャラの魅力としては『ブリッツ』の方に軍配が上がりますかね。


小悪党として登場したエディ・マーサンが見れたのは良かった。『アリス・クリードの失踪』で存在を知った彼。
今作ではそれほど出番は多くないが、しっかりと痕跡を残すバイプレーヤーぶりが嬉しい。
観るたびに(とはいってもしっかりと意識して観ているのは『アリス…』と英国ドラマ『刑事トム・ソーン』くらいだけど)ビジュアルが微妙に違っていて、今回もモミあげと色眼鏡によるキャラ造形がなかなか面白い。
おっさんだけど要注目の俳優のひとりです。
その他ジョーダン役のデヴィッド・シューリスといったアラン・リックマン系統のイギリス顔も見れます。


とまあ色々と文句も言いましたが、ラストの「寄る辺ない」締めくくり(ちょっとTV『探偵物語』のラストを思い出した。「お、お前かよ!」)なんかは嫌いじゃないし、100分にまとまってるのは良かった。
それにしてもパパラッチ、下品だなあ。


といった感じで始まった2012年の映画ライフ。今年もこんな感じでいきます。