杭を打ちこみ全てを水に流せ。『フライトナイト/恐怖の夜』

過去は美化される、と言う訳でもないだろうけど。
昔に観た映画で、「あの映画面白かったなあ」という作品はいくつかあるが、案外観直してみたらそうでもないと言う事はありそうだ。
当時には気づかなかった粗が目に付いたり、自分の感じ方が変わったりと色々理由はあるだろうけど、でも当時に「面白い」と思った事実は動かない。その時に自分を動かした何かがそこにはあった。ハズ。

と言う事で
フライトナイト/恐怖の夜』

最初に劇場で予告編を目にした時「フライトナイトっぽい話だなあ」と思っていたら最後に「フライトナイト」ってタイトルが出たのでちょっと驚いた。
まさか『フライトナイト』がリメイクされるとは思わなかった。
オリジナルのトム・ホランド版を観たのは高校生の頃。そのあと観直したりした訳じゃないので細かいところまで記憶していないんだけど、当時とても面白く感じて、というか結構気にっていた。
コメディタッチでありながらヴァンパイア物として成立しているのはもちろん、ロディ・マクドウォール演じる(偽)ヴァンパイア・ハンターの人生奪回物語としても「グっと」くる作品だった。


と言う事で今回のリメイクには結構期待して劇場に足を運んだ。
んだけど。
ちょっと物足りなさを感じた、というのが正直なところ。
コリン・ファレルを始め、キャストはとても魅力的だったと思う。チャーリー役のアントン・イェルチンもエイミー役のイモージェン・プーツも初々しくて良いし、トニー・コレット(長髪の彼女を見たのは初めてかもしれない)の存在も嬉しい。クリストファー・ミンツ=プラッセも出てるし。
ただオリジナル版にあったコメディタッチの要素が足りないのが個人的には不満。あのバカバカしさが同居したホラータッチが良かったのに。

以下ネタバレありで。


一番気になったのはピーター・ヴィンセントのキャラ設定。
オリジナル版のピーターには、かつての当たり役(ヴァンパイアハンター)にしがみついている初老スターの「潔くないあがき」のようなものが感じられて、だからこそ後の活躍にカタルシスを感じる作りになっていた。
「いや、君ね。あんなものは嘘だよ」と言いながら相手にしていなかったピーターが、最終的には助っ人になってくれてなおかつ「かつての輝かしい自分」を取り戻すことにもなっていたのが良かった。
今回のピーター・ヴィンセントは、ベガスで成功していてセキュリティ完備のタワーに住んでいたりする。綺麗なお姉さんもはべらしているし、オリジナル版にあった「落ちぶれ感」がない。
終盤になって「かつて俺もアイツに家族を殺された」といった告白をする事で、彼にもリベンジの大義があった事が明かされるがイマイチ心が動かない。もう少しインチキ感が欲しかった。インチキなヴァンパイアハンターに助っ人を頼むってところが肝だった気がするんだけどな。
演じたデイヴィッド・テナントが悪くなかっただけに惜しい感じ。

あとチャーリーとエディの友情関係も何かとってつけたようで残念だった。その結果、エディの死に際の「そう。これでいいんだ」のセリフも響きが小さかった。クリストファー・ミンツ=プラッセがちょっと勿体ない。


とは言え、チャーリーやエミリーといった若い二人は魅力的だし、その他に良いところもある。「お」と思わせる場面もいくつかあった。
例えばドリス(だったっけ?隣のセクシーなダンサーのお姉さん)がジェリーの犠牲になる場面。
チャーリーは扉の隙間からその様子を覗きみていて、被害者の女性と目が合う。その時彼女はチャーリーに向かって「声を出さないで」と口に手をやるんだよね。涙を流しながら。
ここかなり切ない。哀しい。

ブルーベルベット的な覗き
でも個人的には『フライトナイト』には合わないトーンだとも感じる。助けたいけど助けられない。これ、結構エグイシーンだよ。

その後の、夜が明けた時に外へ出てドリス(しつこいようだけど、ホントに役名忘れた)が燃え尽きて消滅してしまうシーンも悪くないし、車での逃亡シーンの凝ったカメラワークなんかも嫌いじゃない。
うん。いくつか悪くないシーンもあるにはある。というか何だかんだで100分飽きることなく観れたし。
だから監督のクレイグ・ギレスピーの才能に光る部分がない、という訳ではない。


ヴァンパイアの咬みつきを性行為のメタファーとして捉えるのもアリがちで如何なものかと言う感じもするけど(おっさんとかも犠牲になってる訳だし。あ、でもあの時ジェリーは結構戸惑っていたな。「咬みたくねーけど仕方ない」って感じだった)、ジェリーが女性に咬みつくシーンがセクシャルな空気をまとっているのは確かだ。
そう言う意味では同じ回で観ていた中学生グループは何を感じていたか気になるところ。


「オリジナルの方が良かった」というのも不毛な話には違いない。でもね、やっぱりトム・ホランド版『フライトナイト』が観たくなった。
案外「あれ、観直してみるとそうでもないな」って事になるかもだけど。