空っぽの瞳で見つめる景色。『TIME』

財布のお金が空っぽでも、昨日買ったパンがあれば空腹は満たされる。
無一文で道に倒れていても誰かが手を差し伸べてくれるかもしれない。
でも人の寿命を延ばす事は、多分出来ない。

と言う事で
『TIME』

予告編でキリアン・マーフィーとアマンダ・セイフライドの不思議な笑顔に何となく惹かれたが、何かと評判の良くない今作。
いや、結構面白いじゃないの!
それほど期待していなかったという事もあるんだろうけど、充分楽しめた。
確かに設定の粗さを始め、細かいツッコミどころがないわけではない。一体どういう経済理論やモラルで成り立ってる世の中なんだ、とか職業倫理がどうなっているのか、とか考え始めると疑問が出てくる。
青くて浅い社会革命的な正義感とかね。
それでもタイム・イズ・マネーどころかタイム・イズ・ライフなこの世界は、魅力的なキャストでそういった粗が気にならない。後半の「え?こういう展開になるんかい!」という点も含めて楽しめる映画だった。
イムリミットが迫るドキドキ感も一応あるし。
ジャスティン・ティンバーレイクアマンダ・セイフライド(ってサイフリッドって表記もあってどちらが正しいんだろうか)も若々しくて良かったけど、何しろキリアン・マーフィーだ。
当初から「キリアン・マーフィーを愛でる映画」として認識していたので、その点でも満足が得られる。
ある意味、彼が演じるタイムキーパーこそがこの映画の主役ではないかと思うほどだ。
25歳には見えないけどね。

(以下ネタバレ含む)

序盤、ウィルの母親(オリヴィア・ワイルドの無機質な感じも合ってた)の死に様で分かるこの世界の仕組み。
情状酌量の余地もなく無情に訪れるタイムリミット。ギリギリで倒れる描写はあざとくもあるが、効果的。
ラストのウィルとシルヴィアが駆け寄る場面とこの場面がシンクロする事で、「下手したらシルヴィア死んじゃうんじゃないの?そういう寄る辺ない的展開か?」とドキドキ感を与えさせるやり方は、上手いと思った。

シルヴィアがウィルに半ば洗脳されるように転向していく様は、粗といえば粗かもしれないが、「お嬢さんがこうやって社会正義に目覚めて、プロ市民化したりするのってありそうだなー」という気にもさせる。
鼠小僧かよ!とツッコミたくなる行動やボニー&クライドみたいな行動も苦笑してしまう要素だけど、それもまた楽しむ事ができたのはキャストの魅力だろうか。
アマンダ・セイフライド不思議な魅力がありますね。

このいきなり銃ぶっ放すところ良かった。

まだ反目している状態だったと思うけど手をとりあい仲良く逃避行。

それにしても。
キリアン・マーフィーですよ。
あの空っぽな感じの瞳。ほぼ無表情な状態でウィルを追いかけるタイムキーパー。素晴らしかったなあ。
もう少し彼の活躍を見たかったくらいだ。


タイムゾーンの秩序を守る」その一点のみに自己を賭けているような生き様には、キャラクターの中で一番感情移入ししていた。
スラム街から飛び出して、おそらくは血の滲むような思いをしながらタイムキーパーという職についた男。
とはいえ、被支配層でもあって与えられる報酬(時間)はごくわずか。
それでも彼はタイムリミットぎりぎりまで働いてしまう。それはプライドか意地か。
ワイス父に買収を持ちかけられても毅然と断った時点でもう完全にタイムキーパー・レオン視点で映画を観ていましたよ。
それだけに、ラストの「残り44分…!充分だッ!」って感じでウィル&シルヴィアを追いかけるところなんて男の矜持的なモノを感じてグっときたよ。
「時間が、時間がないよ。レオンッ!」て思いながら顛末を見つめていたので、彼の死に様を目の当たりにしながら何の余韻もなく次の行動にでるウィル&シルヴィアに軽くイラッとしたりして。

空っぽの瞳で執拗に追いかけるキリアン・マーフィーを観るだけでも充分価値のある映画だった。

と言う事で。
キリアン・マーフィーの身長があと10センチ高かったら、映画界は大きく変わっていたな、と思う今日この頃です。