出来ない約束はしない。でも卵は買ってきたよ。『アメイジング・スパイダーマン(3D)』

ドラマでも映画でも小説でも良いんだけど、ストーリーの定型として「すれ違う気持ち」が描かれることが多い。
「自分がいると彼女(彼)のためにならない。だからあえて身を引く」みたいなね。
月9(って例えが古いねしかし)で言うと最終回の2話前くらいで誤解から主役の男女が離れ離れになるパターンとか。
それが上手に表現されていればとても良い効果を生むとは思うんだけど、大抵の場合はイライラする。
そういうお手軽なフックはいらないんだよッ!


という事で
アメイジングスパイダーマン

まず最初に言っておきたい。
日本版テーマソングとかいらないから!!

さて。
サム・ライミ版がそのまま製作されて、どんどん成長、というか加齢していくスパイダーマンを観るというのもそれはそれで楽しそうではあるが、個人的にはシリーズモノは3部作で充分だと思っているのでコレで良いんじゃないでしょうか。
正直「また誕生のシーンから見せられるのか」という気持ちもないわけではなかったけど、結論からいうと今回のリブート版は良く出来ていると思う。
ていうかエマ・ストーン目当てだったんですけどね。エマ・ストーンの存在でプラス30点。
アンドリュー・ガーフィールド角度によってイケメン指数が激しく上下するというビジュアルも丁度良かったと思うし、妙にダークに囚われすぎていないところも好感が持てる。
リス・エヴァンスチャーリー・シーン、サリー・フィールドといったキャストも良し。
いや、サリー・フィールドは流石というか、出番とか台詞って少ないんだけど存在感ありあり。
それから忘れてはいけないC・トーマス・ハウエル!
観てる時は全然気がつかなくて連れから「あれ…だよね?」って言われても「いやー、違うっしょ!おっさんじゃん」って思って調べたらそうだったという。
いやー久しぶりに見たわ。*1

3Dについては、激しい動きの場面では(衰えた動体視力のせいか)チカチカして厳しかったけど、自然な奥行き感も良かった。


ちょっと軽めのスパイダーマンという所作も悪くない。
ケータイいじりながら敵をマンジリと待ってるところなんか、どっちかというとヒーロー物のパロディみたいになっているけど、その距離感というかバランスは良い感じに保てていたんじゃないだろか。

今回ベンおじさんは
With Great Power comes Great Responsibility
とは言わない。
ベンおじさんがピーターの携帯に遺した「遺言」の細かい部分は、正直観てから一週間経っているので忘れてしまったけど、確か「人にはそれぞれやるべきことがある」みたいな事を言ってたんじゃなかったっけか。いや、ホントに忘れた。
だからと言うわけではないけど、今回ピーターは、それほど自分のパワーが及ぼす影響について「恐怖/脅威」を抱いていない印象だ。
むしろガンガン使ってくぜ、って感じ。
「俺、良い事してんのになんで警察に追われなきゃいけないの?プンスカ!」って風情を醸し出すパーカー君も青春って事で許す。

ピーターとグウェンの関係はライミ版のピーターとMJの関係よりはカジュアルで、二人のシーンが持つ空気はアメコミものというよりは青春ドラマに近い。お決まりの窓から部屋へ侵入もあるし。
ライミ版に比べると主役二人はリア充度が高いし、その分「秘めた恋心」のような回り道はとらない。言ってみればトントン拍子に進展していく。
正体もあっさりバラしちゃうし。
ややこしい葛藤や擦れ違いはショートカットという小気味よさは好意的にとらえたい。
唯一障害とも言える父親の存在も、それほど大きな壁ではない。
その辺りに物足りなさを感じる人もいるかもしれないが、自分はこのカジュアルさはそれはそれでアリだった。
グウェン父の「これからは娘に近づくな」という遺言を受けて、約束通り距離を取るんだけど、そういったすれ違いをアッサリとかわすあたりは好みに合う。ピーターのウチに来て「なんで葬式にも来ないのよ!(泣)」のあとに「パパが言ったのね」と悟る聡明さが素晴らしいし、結局ラストで「守れない約束もある」と言うピーターも、まあ見ようによってはチャラいが、いや爽やかな締めくくりじゃないですか。自分は好きだね。
ドヨーンとした気持ちで終わる映画も良いけど、今回のリブート版にはこういうカジュアルさが適しているんだろうね。


グウェン父が命と引き換えにピーターに託した(結構重い)約束は、あっさりと反故にされるが、一方でおばさんに頼まれた卵はボロボロになりながらもきちんと買ってくる。
「それこそがピーターにとっての重要案件だからだ」なんて言うつもりはないが、この卵を持って帰ったピーターを迎えるアンおばさんの包容力はなかなかのものでした。このシーン、グッとくるね。

『(500日の)サマー』で感じた事なんだけど、マーク・ウェブは台詞じゃなくてキャラクターのちょっとした表情で観客に何かを悟らせるのが上手いと思う。いつかサスペンスとかミステリー系を撮ると面白いものが出来る気がする。

という事で、ダークにより過ぎない程よいカジュアルさをまとったスパイダーマン。2Dでもう一回観るかな。オリジナルのエンディングテーマで!

*1:このおっさんの恩返しシーンは、少し笑ってしまうが。いやでも嫌いじゃないよ