あの頃に戻るのはイヤだから。『ボーン・レガシー』

魔法の薬でキリキリ頭が良くなったり、理想の体型になったり、そんなことは夢物語な訳だけど。
まあしかしそうやって変身した自分は果たして誰なんだろうか?
なんてね。

と言う事で
ボーン・レガシー

ボーン・シリーズの新作、と言っていいのかどうか正直微妙というのが第一印象。
いや面白い事は面白いんだけど、何と言うか今までのシリーズと比較するとIQが低いと言う感じ。
マット・デイモンの一見朴訥なイメージから生まれるキレキレのアクションと知的な行動が作り出す魅力が今作には欠けている気がする。
いやジェレミー・レナーは良かった。とても魅力的だし、アクションも冴えてるとは思う。
いっそリブート版としてジェイソン・ボーンを演じた方が良かったんじゃないだろうか。シリーズの設定を活かしつつ新しいキャラクターを作り出すことには成功しているとは言い難い。
とはいえ。
グっとくるシーンもいくつかあって、特にレイチェル・ワイズが今回はかなり頑張っていたのではないでしょうか?
髪をおろしたレイチェル・ワイズにあれほどの破壊力があるとは思いませんでした。
一瞬の出番だったけどスコット・グレンも見れたし、デヴィッド・ストラザーンも相変わらず渋い。
そしてジェリコ・イヴァネクジェリコ・イヴァネクぶりに感心したりできるなどキャスト陣は観ているだけで飽きない。
ただノートン先生だけは何で出てきたんだ?って感じでしたね。まさに正しい意味での役不足というか。




いやレイチェル・ワイズ良かった。
これまでは綺麗だけどちょっとお高い感じのする人だったけど、案外こういったアクション適正もあるんだね。
特にアジアの雑踏でレイチェル・ワイズが叫んだ「アーロン!逃げて―――!」は良かった。

鏡に残した「NO MORE」のメッセージ。
ここもなかなか良い場面だった。
NO MOREのメッセージは字幕では「もう追うな」って訳されていたけど、あとから色々見ていると「もう薬いらなくなったよ」という意味ではないかという解釈もあって、個人的にはこっちの方を採りたい。
IQを詐称して入隊したアーロンが今、工作員として持っている能力は化学的に作られたもので本来の自分とはかけ離れた「新しい自分」だったりする訳で。
アーロンが薬の服用(あるいはそれを持続させるワクチンの接種)に拘っているのは、まさにこの「新しい自分」が失われてしまうという恐怖からではないか。
ワクチンの接種によって薬の服用が必要なくなった事で「あの頃の自分」に戻ってしまうことはない。「もう俺は完全にアーロンになった」という宣言としての NO MORE という方がしっくりくる。


そんな感じでこの場面以降はほぼアーロン独演会状態になっていて、ちょっと香港映画っぽいノリも含めてまあ楽しめはする。
しかし、ラスボスはちょっと拍子抜けだったなあ。
「最強の刺客」みたいなフリだった割にはマルタに蹴飛ばされてお終いになっちゃうし。ルイ・オザワは残念ながらクライヴ・オーエンのような存在感は残せなかった。
いっそ日本刀でも持たせれば良かったんだろうか?いやそれこそボーン・シリーズにそぐわないけど、でもそれに近いノリだったよ終盤は。

と言う事で、これシリーズ化するんだろうか?
何だかんだラストのテーマ曲にはアガったけどね。