怒鳴らない人が放つ不気味なオーラ。 『アウトレイジ ビヨンド』

公務員だってタトゥーをしている時代、もはや見た目だけで「その筋」の人がどうかなんて判らない。それが何しろコワイ話であって。
とは言えやはりそういった人には得体のしれないオーラが出てるんだろうな、とも思ったり。

と言う事で
アウトレイジ ビヨンド』

前作のミニマルミュージックのように畳みかける「バカヤローコノヤロー」はとても小気味よく、鈴木慶一の音楽とタイトルバックのカッコ良さも含めてとても気に入っている。
そういった意味では今作は「バカヤローコノヤロー」の密度は下がっているかもしれない。暴力シーンについても前回の歯医者やラーメン屋のようなバイオレンスシーンは減っていて、銃を撃つシーンも殆どは省略されていたり、あるいは画面の外でSEだけが聞こえるという箇所も多い。北野映画らしい描写で好きだけど。
そしていつものとおり薬莢の音や殴るSEは素晴らしく、やはり整った音響環境で味わいたいもののひとつ。
まあしかし、塩見三省の怖さよ。顔面の凶器度は今回�1だったのではないですか。
大友と中田の対峙は、下町と大阪の激突という意味合いもあってなかなか素晴らしいシーン。映画自体もこのあたりからドライブがかかってきた感じがする。
その他、北野映画にマッチするのかと危惧されていた「重鎮」たちも、思いのほか違和感なく見れた気がする。(まあ確かに中尾彬には思わず「ハングマンの悪役かよ!」と突っ込みたくもなったが)

以下ネタバレも含みながら。

中田(塩見三省)の顔面凶器度の高さは、もうはっきりとコワイんだけど、それ以上に不気味だったのが韓国フィクサー張の佇まいだった。
登場から妙なオーラがあって、もしかしたらコレ本物の人連れてきたんじゃなかろうか、と感じてしまう。
傍に立っている側近の白竜が「明らかにコワイ人」というオーラを放っているのとは異なる何か。口調は穏やかだし、表情もほとんど替えないが、得も言われぬ怖さを放っていた。
こういったキャスティングはまさに北野映画の真骨頂と言えるかもしれない。*1

死体が無造作に転がっている様、特に木村の舎弟ふたりが廃材置き場で発見される場面は無常観を感じる。
そしてそれは、大友=ビートたけし/北野武の死生観でもあるのだろう。
大友は木村と行動を共にするが、そこに野心はない。せいぜいあって木村への贖罪くらいと思える。
花菱とのファーストコンタクトの時点で「もういい。木村帰ろ」と言う場面に現れている「ほらダメだったろ」というスタンス。*2
指を食い千切ろうとした木村とは対照的だ。

だからこそ大友の口から加藤(と石原)へのリベンジへの思いが(案外ハッキリと)口から出たのは少し意外だった。
意外だったが、そのセリフが出たことで前作で失ってしまった水野(椎名桔平)や安部の事が頭に浮かんで、結構グっときてしまったりもした。

しかし石原も今回は別の意味でキレキレだったな。前作の英語を巧みにあやつる出来る男というよりは、神経質で、だからこそ吠えてしまう犬のようなキャラ。加瀬亮のゆがんだ顔、最高です。
しかし、大友の『野球やろっか』の笑顔はコワイね。

あ。名高達郎光石研の古参コンビも良かった。最後の『どこ座ってんだ、バカ野郎』の醸し出す小物感。

と言う事でとりとめのないメモのような感じになったが、やはり北野映画は良いですね。
公開初日に行ったんだけどほぼ満杯で、いままで(『座頭市』を除けば)平日のガラガラの劇場で観ていた感じと違って不思議な感覚。
終わった後に映画館の喫煙所でシックでオシャレなスーツを来ている紳士を見かけたんだけど、なんとなくタダならぬオーラを発していてもしかしたら、ソレ系の方だったのかもしれない。なんて事も思いながら。

いやしかし水野や安部のようなキャラクターの不在を感じたのも事実で。
前作で水野を仕留めたスタイリッシュな刺客二人組がいなかったのも寂しかった。あのふたり良かったもんね。


ここはやっぱり『アウトレイジ ビギニング』を観たいところ。多分、作らないだろうけど。

*1:ていうかホント誰なんだ?あの人

*2:『BROTER』でも加藤昌也のところへ言って、断られた時に似たような事を言っている。