空虚な瞳に乾杯『レッド・ライト』

決してイケメンとは言えないかもしれないが、それでも憧れる顔というのはあって。
例えばトム・ウェイツはどちらかと言えば猿顔ダッタリする訳だが、明日からこの顔ね、となったらそれは結構ありがたかったりする。いや、ロン・パールマンまでいくとちょっと考えちゃうけどね。

という事で
レッド・ライト

キリアン・マーフィーの顔は、よく見れば骸骨っぽかったりするけど、自分とは対局にあるビジュアルで出来ればあの顔になりたいものだ。
特にあの空虚な瞳は素晴らしく、少し身長が足りないあたりも含めてその存在だけで映画が豊かになる。
と思っているのは私だけではあるまい。

2011年の個人的掘り出し物作品だった『リミット』を撮ったロドリコ・コルテスの新作という事とキリアン・マーフィーの出演作という事でそれだけで+10ポイント。
冒頭の「マーガレット…。マーガレット。少し寝た方が良い」
という台詞ですでに引き込まれていた。
このシーンで我々が感じる微妙な違和感は、どこか現実離れした彼の佇まいと相まってこの作品のベクトルを表していたと感じる。
サスペンスやミステリという視点で言えば、確かに甘いところはあるかもしれない。
しかしそういった瑕疵も気にならなかった。

ストーリーの展開や落ちは、ある程度想像の範囲内であったし、驚くほどの仕掛けはなかったかもしれないが、それでも終盤のデ・ニーロとの対峙のシーンは緊張感とある種のカタルシスを感じられる作りになっていたのではないかしら。
それはキリアン・マーフィーに依存している部分が大きい。
浮遊感とスキニーなキリアン・マーフィーの存在感は、トム・バックリーの孤独感と上手くマッチしていて、それだけにラストの彼のつぶやきは胸に迫る。
サイモン・シルヴァーの胡散臭さは、同時にやはり「こいつは本物ではないか」と思わせる見せ方になっていて、そこはやはりデ・ニーロの本領発揮って感じですね。
赤い部屋でのサイモンとトムのやり取りは、何となくリンチ的世界にも思えて、それはハッタリ的演出であるという批判込みで、嫌いになれない。あとホームレスのおばちゃん(だよね?)のところとか。

トム・バックリーとマーガレット、あるいはトムとサイモン、そしてトムとサリーの関係は、それぞれ擬似的家族のようで*1、という面から観るとこれはトムの家族探し、アイデンティティの確認の物語だったのかもしれない。

であるならばラストの「対決」は親殺しでもあって、という話をしたくなる訳だけどそれはちょっと類型的過ぎる気もしてきている。が、それはともかくとしてもサイモンの「How did you do that!?」という叫びは、カリスマの崩壊と共にトムの孤独感を決定付けるモーメントでもあって、何とも印象的だ。
ここでのトムが感じた(であろう)「あんたも偽物か」という落胆はいかほどであったか。

と言った事を言いたくなるのも、すべてはキリアン・マーフィーの存在であって、いやホント彼が主演でなかったらまた別な感情を抱いていたことだろうね。
マーガレットが「あなた、どこから来たの」というような、現実離れした存在感。空っぽな瞳を持つキリアン・マーフィーでなければ出せないオーラ、と言っておく。
という事で、キリアン・マーフィーを愛でるという意味でも、とても俺得な作品でありました。

それにしても毎度思う事だけど。

キリアン・マーフィーの身長があと10㎝高ければ、世界は変わっていた。

*1:時ににトムとマーガレットのコンビはトリックの仲間由紀恵と阿部ちゃんのようでもあって、というのは悪い冗談だろうか。でもちょっと「まるっとお見通しだ」的な部分もあるよね。