大人のジョン・ヒューズ映画。『世界にひとつのプレイブック』

気がつけば、プチデ・ニーロ祭り。

しかしアメリカってのはそんなに病んでいるのかね、という余裕は僕たちにはなくて。

という事で
世界にひとつのプレイブック

ネタバレチックに行きます。
ストーリー構成や展開はどちらかというと定番とも言えるもので、ちょっと『恋しくて』あたりを思い出したりもした訳だけど、いやそれがよく出来ていた。
割とこういうホロ苦系ラブコメは好物なのでとても良かったです。
アメリカ映画では御馴染みのセラピーシーンであるが、しかしこの作品ではパットやティファニーだけが病んでいるわけではない。
友人の仕事や家族に対するストレスはもちろんだが、事によればニッキだって病んでいると言える。校長の過剰なリアクションも尋常ではない。そして父親のパラノイヤぶり。
言ってみれば、この世界での正しいラブコメのあり方ということか。

ストーリや展開は定番と言ったが、それが気にならないのはやはり演出とキャストの力だろうか。そこに留まらない毒というか影のようなものがこっそりまぶしてあるというか。

パットが「ニッキからの手紙」を音読する場面。ティファニーの微妙な表情から感じられる心の動き。
観ている方は、この手紙はおそらくティファニーが書いたものだろうという想像がついている。ついているが故に、ティファニーの表情がエモーショナルに響いてくる。
登場人物たち、特に主役のふたりはよくしゃべっているが、しかしそれは説明的な台詞の羅列になっていない。
ティファニーのパットに対するツンデレ気味のアプローチは、それが節度あるバランスでネタバレされている事でドキドキを与えてくれる。ある意味サスペンスですらあった、というのは的外れか。

端々に見られる台詞だけに頼らない表現方法は巧みだ。
父親がパットへ「お前と過ごす時間が欲しかっただけだ」という告白は、確かに嘘ではないだろう。しかし同時にアメフトの試合のためにその台詞を言っているというのもまた事実だったりして、この辺りの距離感はかなり好きだ。
それから兄がパットに再会したときの嫌みの攻撃。
本当にひどい事ばっかり言う訳だけど、そのときの兄の目は涙で潤んでいる。ここも好きな場面だ。

ティファニーは所々で感情を爆発させてはいるが、パットに対する感情については抑制されている。遠回しの「サイン」を散りばめながら。
であるだけに、ダンス大会に現れたニッキを見てタガが外れたように動揺する姿には、カタルシスを感じたほどだ。
カウンターバーのシーンを割とあっさりと処理したのも結果的に成功だったと思う。
だからこそラストのドレスアップしたジョギング追っかけシーンが効果的に響いてきたんじゃなかろうか。

ジェニファー・ローレンスについては『ウィンターズ・ボーン』で実力は、はっきりしていたし、今作でも流石というか素晴らしかった。目の表情が良いんですよね。あと声も。それからワガママな肢体。
ブラッドリー・クーパーはハング・オーバーシリーズでしか知らないが、いやしかし予想以上に頑張っていた。
周囲とズレているメンタル状態の人っていう感じが良く出ていたし、と同時にチャーミングに見える。いや正直、見損なっていいたかもしれない。

デ・ニーロとジャッキー・ウィーヴァーはもうね、何と言うか「ファミリー感」ばんばんで溜まりませんでしたね。
ジャッキー・ウィーヴァー見ると、どうしても『アニマル・キングダム』のゴッドマザーが浮かんできて、でありながらそれとはまた違う母親っぽさが良かったですよ。何気にアメフトのジャージ着てたりして。

ラストではリモコンも乱雑に置かれているし、ティファニーもコーヒーを穏やかな表情で飲んでいる。
すべての問題は解決したかのような静かな午後。
実際のところ、それがいつまで続くかは判らない。でも。
それでも良いんじゃないかな、という気もしている。