張り付いた笑顔の裏に。『ジャンゴ 繋がれざる者』

そして木綿が血に染まる。

という事で
『ジャンゴ 繋がれざる者』

もはやトレードマークとすら言ってもいいような復讐譚は、爽快感を与えてくれる。160超の上映時間は(ところどころにある冗長な語り口も含めて)全く長く感じない。
確かに『デス・プルーフ』や『イングロリアス・バスターズ』と比較するとカタルシスにやや欠けるかな*1、という気がしないでもないが、それはもしかしたらヒロインに対する好みの差かもしれない。

ネタバレ等は気にせずいきます。

クリストフ・ヴァルツは言うに及ばず、レオも素晴らしかった。染み付いた南部白人の遺伝子、って感じで何と言うか誤解を恐れず言えば妙な親しみすら感じてしまう。その恐ろしさ。
彼が演じたカルヴィン・キャンディという男は、言葉通りの意味で確信犯としての振る舞いをしているに過ぎない。罪悪感など感じる隙間などない。
だからこそ怖いんだよね。

で、さらに怖いのが姉のララ。
あの張り付いた笑顔。一見すると上品な面持ちであるが、というより実際にあの社会の中では「上品」なのであって、ごく普通にセレブとしてのスタンスの中に奴隷に対する扱いがしっかりと組み込まれている、というかね。
それが当たり前の世界の中で行われている行為の恐ろしさ。
キャンディがブルームヒルダの背中の傷を見せようとした場面で声を荒げて制止したララの行動は、決してブルームヒルダを庇ってのことではない。そんな事を思うはずがない。
終止上品な笑顔を携えていたララの最期は、だからあれで良かったのかもしれません。*2

そしてさらに印象的だったのはサミュエル・L・ジャクソン。流石としか言えないですが、ドリフ的な動きとそこから発せられる凄み。書斎でキャンディに忠告する場面は、もはやラスボスの風格。というよりラスボスだったけど。
彼が演じるスティーヴンは、もちろんアフロアメリカンではあるがしっかりと奴隷を奴隷として扱うことにプライドに近いものを持っている。いやプライドというのは少し違うかもしれないが、つまりスティーヴンはしっかりと「体制側」の人間であってそういった役割として奴隷を統括(あるいは奴隷を蔑視)している。
こういった形でシステムが補強されている、その怖さというかエグさ。

というような事は声高に叫ばれている訳ではなくて。アメリカが舞台でありながらマカロニ・ウェスタンテイストという、ある意味タラちゃんらしさ。
ともすればギミックに食傷しそうになりそうなところだが、その心配はなかった。
序盤の暗闇から雪の季節を過ぎ、ビッグ・ダディの屋敷へやってきたときの色鮮やかな画面。妙なカタルシスを感じる場面で好きだ。
飛び散る血や内蔵、そして撃たれた時に吐き出される4文字系悪態。
そして白い綿に飛び散る血の美しさ。白い綿ってのがまたね。

ジャンゴ・フリーマンとブルームヒルダの旅立ちは、派手な屋敷の爆発で彩られている。
でも先行きは明るいかどうかは判らない。ただ繋がれた鎖は解かれた。

*1:観終わった時に「サントラいらないかな」と思ったけど、よく考えたらダイアローグとか入っているはずだしやっぱり買おうかと思っていたりします。

*2:ピョーンって飛んでったよね。その他、序盤の「わー人殺しだー」って感じで町の人が散り散りに逃げていく場面とか、コントすれすれの表現結構あった。