夜明けとともに街は黄色く霞む。『マジック・マイク』

久しぶりに文化村のル・シネマに行ってみたが、いや久しぶりというか、そもそもここで映画を観ることはほとんどない。
何年か前に『カリフォルニア』を観た気がするが、その記憶も曖昧なくらい。

という事で
マジック・マイク

週末の午前中であったが、観客は20名ほど。そのうち男性客は自分を含めて3名。
もともとチャニング・テイタムの顔はあまり好きではない。というか苦手な方。
そういうハンディを考慮すれば、本作の彼はなかなか頑張っていたと思う。経験を活かしたダンスはやはり「魅せる」レベルだし、素直にかっこいいなと思える場面もあった。

昼間のシーンでは全体的に黄色いフィルタがかかっていて、夜が明けると、そこに広がる現実は鮮やかな青空も海もくすんでいる。夜の華やかさ(それは淫靡な暗さも含んだものであるが)との対比は、なるほどソダバーグという印象。

マイク(チャニング・テイタム)が”マジック”を発揮できるのは、どうにも夜だけであって、昼間のマイクはスーツやメガネといったコスプレ(にしか見えない)をしたところで銀行の融資係を落とすことはできない。台詞にあるように「クレジット」がない状態では、いくら現金の束を持っていてもマジックは効かない。この黄色い世界では。

ストリッパーからアメリカンドリームを成し遂げた男、という図式は当てはまらない。マイクの夢とされている「オーダーメイドの家具屋(ちょっとシャレオツな)」は、どうみても成功しそうな気配はないし、果たしてどれくらいの真剣度で取り組んでいるのかも怪しい。
小屋のオーナーであるダラス(マシュー・マコノヒー)との共同経営の話は、適当に(というよりも老獪に)誤摩化されているし、銀行で自称実業家を気取って見せても、その綻びは容易く見破られてしまう。
黄色く霞んだ世界では、マイクのパンツにドル紙幣を入れてくれる人はいない。

夜の世界で描かれるニューカマーの台頭という典型は、飽きさせないバランスがあって悪くない。結局マイクは王座から降りる事になるが、その様に敗者の美学が入り込むスペースはない。それほど美しくは描かれていない。
むしろダラス*1やアダム*2たちの方が十分マジックを発揮しているように見える。

だからといって。小屋の連中が勝者であるかと言えばそれも怪しい。フロリダ行きをアメリカンドリームとして見立てるのには少し無理がある。

パンツにお金を入れる世界から足を洗ったマイクの最後の行動は、映画を締めくくるには一定の品格を保っているとは思うし、そこにちょっとしたマジックを感じたこと*3を否定はしない。

でも。

多分マイクの人生は、そんなに上手くいかないような気がするけどね。

*1:マシュー・マコノヒーのゴツゴツとした顔から発せられるオーラというのは、しかし不思議なもので、踊りも決して洗練されていないはずだが、妙な迫力があって中々の見応えであった。

*2:アレックス・ペティファーは「アイ・アム・ナンバー4」以来だけど、と思ったら「TIME」に出てたか。ともかく頑張ってたんじゃないですか。チャニング・テイタムとどちらかを選べと言われれば彼を選ぶ。そんなシチュエーションなんてないけど

*3:アダムの姉役のコディ・ホーンは最近どっかで観たぞとおもったら「エンド・オブ・ウォッチ」の女性警官ではないか。美人の境界線を綱渡りするようなルックスは割と好みだし、時折ハッとするような輝きを見せてくれて良かった