ミリ単位で向こう側へ連れて行かれる恐怖。『凶悪』

帰省ついてでに地元のミニシアターで観たわけだけど。

なんというか年老いた両親の姿を見た後だど、何ともいえない思いが募ったりもするわけで。

という事で
『凶悪』

ケレンのない画面が、かえって生々しさとなってホラー的恐怖を伴って向かってくる。
空き地や古びた家屋から溢れ出る、というか滲み出る負のオーラは、嫌な気持ちにさせる度合いがどんでもない。
老人たちをはじめ、キャストは素晴らしい。
吉村実子が可愛らしさは、その魅力的な振る舞いが一層哀しみをドライヴさせる。ジジ・ぶぅの駄目なジジイっぷりも良かったし、それ以外でも裁判官とか検察の人とか生々しさ満点の存在感。

冒頭から陰惨な場面が続くが、最も鬼畜なのは酒を無理矢理飲ませたり、スタンガンをびりびりやりながら「先生!やりすぎ!長い長いwww」のところ。ではなく。
小学生役の子が机に座っている部屋の隣で、母親とピエール瀧がセックスしているシーン。
もちろん壁に隔たれているものの、カットは割られておらずワンシーンで撮られていて、その現場の事を思うと、非常にいたたまれない気持ちになる。
本当に嫌になるくらいだけれども、それは池脇千鶴に言われるまでもなく我々も楽しんでいるわけで、それに対して「人間ってそういうもんだろう」というのは決して開き直りでもなく、むしろそういうものであることを踏まえて生きて行くしかないような気がしたりする。
結局、紙一重で踏みとどまっているだけな気がして、それがまた怖さを生むという連鎖。

それにしても。

ピエール瀧リリー・フランキーのツーショット画面の禍々しさがスクリーンに大写しになっている事実は、それが高いレベルであることを含めて、日本映画の今にとって幸せなことなのか不幸なことなのか。
どちらなんでしょうね。